7/12日記(ヌルツバイさんの絵について)

 ヌルツバイさんというフォロイーのクラゲさんがいて、理由は知らんが日々Twitterに「おやすみ」の絵をアップしてるのだけど、私は非常にその絵が好きである。

 で、絵の数がある程度たまってくると、まとめてコメントを添えて引用RTするという迷惑行為を勝手にやっているのだけど、それを続けてるうちに絵全体の感想を書きたくなってきたので書きます。あと、この文章は別に宣伝とかじゃないんだけど、ここからヌルツバイTシャツが買えます。

suzuri.jp

 

 端的にヌルツ絵の魅力を語ると、絵の中に確立された世界があるということに尽きる。

 私は絵とかイラストには全然明るくないんだけど、ヌルツ絵はなんかちょっと構図とか題材が変わってて面白い。一般的なかわいいイラストには描かれてないような場面を切り取ったものが多い。その世界に描かれるものはその日のTwitterで話題になったものだったり、昼間の会話に出て来たものだったりする。よく分かんないんだけど、テーマとかは結構場当たり的に決めてるのだろうか?

 私は何かを見るとついその背後にある文脈や引用やナラティブを探してしまうのだけれど、ヌルツ絵の中にはそれがたくさん見つかる。で、それが全て計算によるものでは無さそうなところに好ましさを感じている。パロディ的な表現も多くある。そしてそれが、引用の活用だとか、本歌取りだと言い切るには血肉になってるというか、彼女が見て来たものが無意識に滲んでる感じがとても好きだ。

 

 私がこんな風に文章でぐちゃぐちゃとなんか言うよりも、ヌルツ絵を見てもらった方が早いしいろいろ伝わると思うのでさっさと引用します。

 まあ例えばこれなのだけど。

  日本に産まれてしまってその文化を享受してる我々のほとんどは、この絵の向こうにラッセンを見てしまうのではないか?

 2021年に「ラッセン的なもの」について言及するのは、複雑すぎてとても難しい。ラッセンの絵の販売方法には問題があったというし、ギラギラしたアレをありがたがって良しとする者には審美眼がない垢抜けないイメージもある。まあでもなんていうかシーパンク的な文脈もあって、一周回ってカッコいい感じになってたこともあるっちゃあるし、ダサい/ダサくないを単純にはジャッジできない、というかするべきではない、そして今は多様性の時代であり……というか……でも……、

 とか、まあぐるぐる考えてしまいがちだ。

 

 でもヌルツバイ氏はラッセンを取り巻く何かに物申したくて描いたわけでも、ここにその手の批評性を持たせたいわけでもないんだと思う。なんかこういうのあったっけ?なかったっけ?自分なりに描いてみましたよ!かわいいね!って感じがする。で、本当にかわいいし楽しいしきらめいてる絵だ。まあ実際のところは聞いてないので分からないけど。なんかこの絵に社会に対するすげ〜批評性を持たせてるんだったらごめん。

 

 これも明らかに下敷きにしてるのはウィリアム・テルだ。なんで引用したのかよく分かんないけど、頭の上に矢を射られたウィリアム・テルの息子は確かにこういう放心した目をしてたことだろう。

 

 この絵からは偶像崇拝の虚しさを感じて「は?なにこれ……ヤバ!」って思ったんだけど、多分ヌルツさんはそんなん考えてなさそう。死んだ目のクラゲがスプラのヤグラっぽいものに乗った金のクラゲを担いでるよ!重そう!ウケるよね!くらいのテンションのような気がする。

 

 これも。なんか、「銅像の頭を平気で踏む鳥には、銅像になる名誉なんか分かんない。名誉なんか畢竟虚しいもの……ってコト?」とか思って「え………………、ヤバ……………………」って思ったのですが。まあこれはちょっと穿ちすぎたというか、自分の見かたが狂ってるだけのような気もするが……

 

 この絵からはローファイな、というか、ヴェイパーウェイブ的文脈を感じるのだが、ねえ!!!PICOってあったよね!!???覚えてる???みたいな感じなんだと思う(ほんと?聞いてないので分からない、違ったら訂正するから教えてください)。

 なんて言ったらいいのか、引用というには消化されてる感じがする。

 

 ラッセンウィリアム・テルと神輿の上の神具に、社会は序列をつけてしまう。

 でもヌルツ絵の中では、それらは題材になった何かでしかなくて、ほぼ平等なんだと思う。これらは「彼女が見てきたもの」という共通点を持ってるだけであり、絵の中で何かがとりわけ特別視されることはない。私はその、食べたものを満遍なく取り込んでなんでも栄養にしてる感じが好き。

 彼女の絵は窮屈でジャッジメンタルな見かたから自由でいながら、彼女の意図しないところでよく分かんない謎の批評性を纏ってる。とても不思議だ。

 

 ヌルツバイさんはちょっと特異な世界の見かたをしてて、それを絵を通して我々にも覗かせてくれるような感じ。なんだか分かんないんだけど、その絵に描かれたモチーフは、心のどっかに引っかかる。

 私がこんな長々と書いたものを読むよりも、ヌルツ絵を見てもらった方が全然いろんなことが伝わる。絵だけじゃなくて文字や余白の部分からも。そこには多分、言葉にはできない気持ちとか感傷とかきらめきみたいなのも含むんだと思う。

 

 これだけ文章を尽くしても伝わるか分からないものを、たった一枚の絵でパッと伝えられる彼女が羨ましい。