12/25日記(『ダブル』第二十二幕ネタバレ感想)

 これから『ダブル』第二十二幕、ヘドウィグ・アンド・アングリーインチについての話をしますが……。してもよろしいでしょうかね……。

 

1.ベターハーフとして

 

「多家良と友仁の関係は変わってしまったのか?現在二人は互いにどのような感情を持って接しているのか?」という問いに、答えが半分出された。多家良は友仁を「好き」であるらしい。そしてこの「好き」は恋愛感情である。

 そしてこの回では『饗宴』からの引用があった。アンドロギュノスの組み合わせは、男と男、男と女、女と女という3パターンであるから、ベター・ハーフはLGBTsの恋愛をテーマにした物語でよく見るモチーフだ。『饗宴』は「共演」と同じ音でもありますね。

 

 

 Twitterにも書いたが、「この展開は残酷すぎる」というのが初読の感想だ。えっ、友仁はベター・ハーフとして多家良に取り込まれちゃうわけか????と思った。煽り文の「二人で一つの役者」という文章の通りに物語が展開し、友仁は友仁のままで「世界一の役者」にはなれないのか?

 ものすごく正直に言うと、多家良が友仁に見た魅力は純粋に「役者として」のものだけであって欲しかった、と思ってしまった。多家良は唯一、友仁の才能を知っているように描かれていた存在だからだ。

 まあ私はかなり友仁に肩入れしており、友仁オリエンテッドな読みをしているのは確かなのでこれは単なるエゴかもしれないのですが……。

 

 多家良が友仁を「好き」なのは分かったのだが、彼が友仁とどう関わりたいのかは不明瞭だ。多家良は誰かになりきって演じることでなにかを表現する能力こそ高いが、自分の言葉で何かを伝えるのは上手くない。そういう背景があるためか、多家良の言葉はかなり抽象的で読み取りにくい。

 私は、多家良が友仁と離れたのは、舞台で共演(繰り返しますが『饗宴』と同じ音です)したいがゆえに(想いが露見することで?)関係を壊したくなかったからだという理解をした。

 「友仁さんと同じ舞台で戦えるようになりたい」「友仁さんと板の上で生きたい」という言葉が、「友仁とずっと対等でいたい」ということなら、そこに希望があるように思える。多家良には友仁を友仁のままで認めていてほしいし、友仁には多家良と同じ板の上にいるのに相応しい役者になってほしい……。と、思うけれど……。

 

2.「半分のオレンジ」を食べろと勧める男

 

 今回も黒津にはイライラさせられた。メンターかのように多家良を導いているようではあるが、怖かったのは「鏡のようにまるきり同じ芝居をするのはどうだ?」というアドバイスである。まあ多家良はこの提案を「だめ」だと断るのだが……。

 多家良の芝居は友仁の演技プランを最後に「裏切る」ことで完成するので、本当に黒津の意見を実行すると友仁の演技は完全に食い荒らされる。天才が自分の演技を完璧に模倣してきて、その上で自分には到底できない演技を加えてくると思うとゾッとしないだろうか?多家良に友仁を潰させようとしていませんか……?

 

 黒津はチェーホフで卒論を書いてる左翼のインテリで、世界的な評価を得ている映画監督で、革命をモチーフにした映画を作り……と、非常にカリカチュアライズされてる感じがあるというか……ものすごく分かりやすい、古き時代からきたthe 巨匠みたいなキャラクターである。彼は友仁が乗り越えるべき壁の「役」なんだと思っていたが、どうなんだろうか……。

 黒津がもし今後も登場するのであれば、セクハラ・パワハラをしてるのになんとなく許されているのが非常にムカつくので、ぜひ友仁にはコイツを殴って欲しいなと思います。