6/2日記(『ピエール瀧の23区23時』感想)

ピエール瀧の23区23時』を少し前に読んだので感想を書いておく。これは2010年の暮れから2012年の春にかけて、ピエール瀧とスタッフが夜の東京23区を順番に散歩するという企画を本にしたものだ。「既視感のある企画だな」と感じた人もいるのではないだろうか。なにしろ、こうした「普通の街に於ける散歩を主体とした紀行もの」は、同時期にいくつか類似番組が登場していた。マツコ・デラックスの『夜の巷を徘徊する』(2015年〜)、有吉弘行の『有吉くんの正直さんぽ』(2012年〜)、さまぁ〜ずの『モヤモヤさまぁ〜ず2』(2007年〜)などである。背景には、制作費の問題、つまり、テレビ業界がロケにお金を使えなくなったという事情があるのだと思う。


本の話に戻る。

これは2010年の暮れから2012年の春だから、だいたい9〜7年前ということになる。ちょうどその頃暇を持て余していたので、自分も友達と夜によく出歩いていた。この本にも同じように若さと暇を持て余した若者が登場し、瀧と少し会話しては去っていく。瀧はそんな若者たちとそれぞれに会話する。ひとりで星を見ている高校生に「君って優しい子なんだね、こんなところにひとりで星を見にくるなんて」と声をかけ、異国から来た団地住まいの子供と顔じゃんけんで盛り上がり……、渡されたレストランのカードをにこやかに受け取って「そのうち散らかしに行きますね」と声をかけたり、温泉のカラオケで『Shangri-la』を歌い「ご本人登場」をやったり、出稼ぎの外国人の愚痴をずっと聞いてあげたりもしている。ただ相手を持ち上げて褒めて無難な話をするだけではない。それぞれとの対応が優しく、ユーモアがあり、粋であり、こんな風に彼と会ったならファンにならずにはいられないと思う。


しかし、およそ10年前である。

物事がグラデーションのようにしか変わっていかなかった平成なので、10年経っても世の中はそんなに変わってないのではないか?と思ってしまうのだが、実はそうでもない。瀧の持ってるスマホはiPhone4で、サイズも画面もずいぶん小さく思えてしまう。この本に登場するメイドの女の子の名前をググったら、FC2ケータイホームページの前時代的なサイトが出てくる。解像度の低いセルフィーは全然盛れてないし、インスタ映えという感じもしない。瀧が散歩してるこの東京ではスカイツリーが完成していないし、政権も今と違う。企画の始まった頃はまだ東日本大地震も発生してない頃だ。

平成から令和に元号が変わることに対して、なんの感慨も抵抗感も抱かなかったのだが、少し前の東京をこうして見ると、少し惜しいような気持ちが浮かんできた。よく食べていた限定フレーバーのアイスクリームが生産終了になったときに似た気持ちだ。惰性で食べ続けた、慣れ親しんだその時代は2度と来ないのだ。

ここにあるのは「懐かしい」にはまだ至らない、今とは少し違う東京だ。あの時好きだった東京の夜の空気。なんか、時間が確実に経っていることについて、ぼんやりと考えてしまうのだった。