9/29日記(『動物世界』感想)

 中国版実写カイジ『動物世界』を見た。訳の分からんピエロが暴れる予告編を見て、これは……ヤバそうだな……と思ってたがなかなか面白い作品になっていた。しかしこの第一印象は仕方ない。カイジを中華風に料理してみましたとか言われて謎のモンスターと戦うフルアクションのピエロを見せられると、おそらく視聴者の九割が、「理外のピエロっ……!まさか……パチモン……?マーベルのっ……!圧倒的改悪っ……!(ざわ……ざわ……)」という気持ちになり、期待値は、「地の獄……底の底……!」というかなり低いレベル感になるだろう。しかし実際に見たら、「面白いっ……!悪魔的……!僥倖……!愉悦っ……!」となって絶賛せざるを得ない。極限まで下がったハードルを、福本作品のプロットの妙に懐を借り、テンセントのマネーパワーとハイクオリティなCGをエンジンに全力で飛び越えてくる作品だ。

 ちなみに中国版カイジ、なかなかのイケメンで武闘派である。トラウマのせいで自分を狂ったピエロとして認識しており、我を忘れて暴れるときにピエロ化するのだがこれは現実ではなくてカイジの心象風景である。演じるのはリー・イーフォン。
 彼には、まるで可憐なスミレ草のような彼女もいる。彼女が変な男にセクハラされてるとそいつを殴る正義漢で、さらにお人好しで母の介護までしており、幼馴染や息子のいるおっさんを救う心の広さがある。クズというより、心根は優しいが過去のトラウマのためにマッドな面を持つ危うい若者という感じだ。クズ度は低く、ダークヒーローの要素がプラスされている。日本カイジはただのうるさいギャンブル中毒者だが、中国カイジは本能的に戦いを求め、闘争の運命に身を投げる孤高の存在みたいになってる。
 さらに恋愛においては「死ぬ時はお前の腕の中がいい……」とか言ったりするのである。日本カイジは美心に言い寄られて逃げ回ってるのに!

 ピエロ、CG、アクション、ロマンスと、全然違う要素をぶち込んできてるのに面白いしちゃんと「カイジ」になってるのは、原作における限定ジャンケンのプロットの完成度の高さのおかげだろう。作中では限定ジャンケンのエピソードを原作準拠で丁寧にやるのだが、それが功を奏している。
 限定ジャンケン、カイジの中でも人気のあるエピソードで、これこそカイジだろという駆け引きと人間の醜さ、裏の裏をかく展開がアツい。こういう絶妙なストーリーも福本作品における主役だと思うのだが、中国版はそれを良く理解して忠実にやってるので、他で大きな改変をしてるのにちゃんとカイジになってるんだと思う。ここまでCG使うなら視覚的に派手な鉄骨渡りとか焼き土下座もメインに取り入れそうなものだが、入れたら入れたで内容が散らかりかねない。頭脳戦のみをあえてメインに据える構成は正解だと思った。
 あと、グーの買い占めもちゃんとやってくれて嬉しい。藤原竜也は買ってなかった。