7/18日記

 暑すぎる。酷暑の中郵便局に荷物を送りに行ったが、行く道すがら死ぬかと思った。ただ郵便局自体は涼しく、オフィスビルの中であるせいか顧客もてきぱきしたビジネスパーソンばかりでとても良かった。あと、家で貯めてる小銭を時々口座に入れてるので、貯金箱を持って行ってついでに入金した。ただこれは結構めんどくさい。小銭をATMに入れると計数に時間がかかるが、取引完了後も小銭の処理でなかなかATMが利用可能にならない。並んでる時にこれをやると大変迷惑になるため、人のいない時間に入金するようにしてるのだが、ちょうど入金後タイミング悪く後ろに女性が来てしまった。
 その後ゆうパックの宛名書いてる時、視線を感じて振り向いたらその人にすごい目で睨まれてた。目が合ったのだが、私はresting bitchfaceというかナチュラルボーン・メンチ切ってる人間なので、目が合った瞬間になんかすごく慌てたように視線逸らされてしまい、ダブルでごめんなって感じだった。ただこっちも別に違法なことしてるわけではなく、ルールの範囲で入金しただけなので睨まれてもしょうがないのは確か。

 それから、『転がる香港に苔は生えない』読み終えた。これは日本人による返還前後の香港を書いたノンフィクションである。学生時代に中文大学へ留学していた筆者が、その十年後に再度学生ビザを取得して香港で暮らし、返還をその目で見届ける。青春を終えた者が過去のモラトリアムと、変化して行く思い出の街に落とし前をつけるという性格が強い。
 読んでいる時、日本の若者についての描写が私の実感と異なるな?と思っていたのだが、よく考えたら舞台は1997年で、筆者はバブル世代だ。「日本人はブランド志向が強い」と言われても、我々の世代は「ファストファッション量産型」「若者のブランド離れ」とか言われて揶揄されてるわけで、その辺の変化も興味深い。異邦人としての筆者に対し、同じ日本人ではあるものの完全には心情が重ならない状態である。
 特に、地価についてはかなり変わっている。香港の家賃が高いと書かれても、48,600円で風呂トイレ別、冷房付きのワンルームが借りられるとのことで全く高いとは感じない。そして、当時の東京にはこの家賃で広くて治安の良い物件があったらしい。今だと全く想像もつかないが。個人的には、23区内の一人暮らしで治安と広さを求めるなら8〜9万円前後からという感覚がある。
 地価ほどではないが、物価についても違いがある。コーヒー一杯が当時の香港では約180円らしく、これを高いと言われると2018年の東京では何も飲めなくなってしまう。

 そんな違いはあるが、とにかく当時の香港のめちゃくちゃ具合が伝わってきてやばい。返還に伴い、移民になろうと必死だったり、密入国したり、賄賂が平気で存在したり。道理や常識が通用しないことも多い。この街では努力はある程度なら報われるが、激動の香港において、結局人は生まれたタイミングやその時の権力者に翻弄される。運が全てを決める。そしてそれを受け入れたり、受け入れられなかったりしながら香港人は生きるしかない。
 ここに描かれる大陸人(香港島ではなく、中国本土からやってきた人間で、多くが貧困層)の描写から、私は日本でいわゆる「田舎の人間」を本当には見たことがないんだなと感じた。日本に多様性のグラデーションは少ない。住んでいると気づかないこともあるが、日本人はなんとなく均質だ。それ故に異質なものを排除する。
 タイトルはイギリスの警句とかボブ・ディランのlike a rolling stoneなんかへの連想から、香港に対する辛辣な皮肉かと想像してしまうが、そうではないのだった。これは日本への警告だった。『さざれ石の巌となりて、苔のむすまで』だ。