12/23日記(『JUDGE EYES〜死神の遺言〜』ことキムタクのゲーム)

『JUDGE EYES〜死神の遺言〜』ことキムタクのゲーム、非常にとんでもない作品だ。これはキムタク演じる探偵(元弁護士)が、『龍が如く』シリーズの舞台でもある神室町で大暴れするというゲームである。スターともなるとこういう自分のゲームが作られてしまう。よく知らないが、この手のゲームで一番成功したのは『たけしの挑戦状』か?ちなみに、悪役としてこの作品に出演しているピエール瀧はすでに『グルーヴ地獄V』と『バイトヘル』という自分のゲームを作っているのでキムタクの先輩である。

ところでこのゲーム、制作発表記者会見の時点でヤバいな……と思っていた。「若い頃は不良だったが、更正して夜学に通い司法試験に合格した元弁護士の熱血探偵」……、この主人公像はドラマ『HERO』などで彼が演じていた役を想起させる。台詞回しもあまりにもキムタクそのままだ。当て書きどころの騒ぎではない。その上、正直に言うと、予告ムービーで暴れ回るゲームのキムタクを見た後、記者会見で登場した本物の生きたキムタクを見た時に「え、身長低いし身体も仕上がってないじゃん!なんかキムタクのコスプレをしたそっくりさんみたい!」と感じてしまったのである。ゲームのキムタクは、本物のキムタクの欠点を浮かび上がらせる存在だった。キムタクより完璧なキムタクである存在がそこにいた。
言っておくがキムタクはキムタクのままで既に文句の付けようのないイケメンであり、スターである。だが、ゲームのキムタクは元々優れているキムタクのパラメータをさらに神経質にいじって完璧にしているのだ。というか、ジャッジアイズのキムタクを見た時、あまりにもキムタクすぎて、我々がこれまで目にしてきたドラマでのキムタクやバラエティのキムタク、そしてキムタク自身すら似像に過ぎない気さえした。ジャッジアイズのキムタクは、もはやキムタクのイデアに最も肉薄している存在である。
このキムタクは、キムタクより長身でプロポーションもよく筋肉質で、そして若く、司法試験に合格する頭脳とその辺のヤクザならまとめて倒せる強さ、弱者を助ける優しさを兼ね備え、しかも老いない。その上で彼は「ちょ待てよ」をはじめとして、キムタクがこれまでに言ってきたセリフや、いかにも言いそうなセリフをガンガン放つ。ヤバすぎやしないか?
キムタクのイデアって何だよという感じもあるが、でもジャッジアイズのキムタクを見た時にみんな思ったはずだ。「すげー!これめっちゃキムタクじゃん!」。
つまり、キムタクのイデアは日本で生きている殆どの人の中に確実に存在するのである。そんなヤバい事実にも気づかされる。

そんなアルティメット・キムタクの生きる舞台だが、毎度おなじみ歌舞伎町を模した神室町である。
この舞台は『龍が如く』からの借り物ではあるのだが、キムタクの活きる世界にふさわしいシナリオが与えられている。俳優・キムタクは非常にピーキーであると言わざるを得ないのだが、このゲームのベースは彼の最大速度が出せる「お仕事ドラマ」なのだ。日本的ドラマ。日本的予定調和、型通りの勧善懲悪。平成時代のありとあらゆるドラマで視聴率を稼ぎつづけた男が映えないわけがない。
メインストーリーの、キムタクがこれまでに飽きる程出演してきた日本のドラマを模したようなシナリオに対して、サイドストーリーは日本的なバラエティ番組の相似形と言える。
サイドストーリーを少しプレイするだけで童貞ネタ、セクハラ、容姿に対する差別や職業差別が出てくるし、女性やオタク、犯罪者なんかへの偏見もどんどん現れてくる。そして、それらで笑いを取ろうとしてくる。このゲームの中では、暴排条例のために今や絶滅危惧種となったヤクザと、ポリティカルコレクトネスのために今や排除されつつある演出が出張っているのだ。
「PCのせいでテレビがつまらなくなった」などと言うこともなく、こうした演出をいつか「平成っぽい」と否定的に呼ぶ日が我々にも来るはずだ。

まあそういうわけで、このゲームはすごい。今は確かに存在するがいずれ消えてしまう、そういう世界を平成最大のスター「キムタク」としてサバイブする、非常に平成の終わりにふさわしいゲームだった。