10/31日記(トム・ハンクス『変わったタイプ』感想)

 トム・ハンクス『変わったタイプ』を読んだ。俳優の書いた小説ということで、ほのぼのした善男善女のハッピーエンド集かなと思ってたけどそうでもなかった。そういうものよりは、彼の見てきたアメリカを彼の感じたままに写し取ろうという試みに感じた。彼にとってアメリカは、変わったタイプと目される個人の集まりで創発された国家なのだろう。つまりこれは、アメリカについての短編集だ。
 収められているストーリーの舞台は現代だけではなく、1970年代や1930年代など過去も登場する。そして、それぞれには各時代のアイコンがたくさん散りばめられてる。例えば現代ならiPhone、GALAXY、TwitterNetflixKobo(マジかよ)などの小道具が全く違和感なく登場する。『ガールズ』とか、アデルやテイラー・スウィフトも登場するし、ウェブ上で動画がバイラルになる現象すら書いている。
 トム・ハンクス、これを上梓した時点で61歳なのだが、さすがショウビズ界の第一線で長年やってるだけあって世間をキャッチアップしてる。でもKoboを選んだ理由は分からない。Kindleだろそこは。
 時代にふさわしい固有名詞を並べる一方で、なぜか全編にタイプライターが登場する。どうやらトム・ハンクスは大変なタイプライターマニアらしい。思うにこのタイプライターは彼自身の投影なんだろう。かつては大変な需要があり、今は古くなったガジェットで、どの時代にも存在し、やがて庶民の暮らしからは完全に消えて博物館の展示品になっていく。

 それから、著者がトム・ハンクスだと小説から出演映画を感じ取る楽しみが発生する。例えば戦争の話では『プライベート・ライアン』を思い出す。あとショウビズ界について書かれた短編が二つある。内容は、なんでもなかった俳優がちょっとしたチャンスをモノにするという、なかなかのアメリカンドリームである。こういうラッキーが本当にあるの?という感じだが、トム・ハンクスがそう書いてるならあるのかもしれない。