1/16日記(『15時17分、パリ行き』とかの感想)

 『パッセンジャー』『宇宙人ポール』『15時17分、パリ行き』『スプリング・ブレイカーズ』『ビッグ・アイズ』『オー!ブラザー』『ムーンライト』と、なんかたくさん映画を見た。好みの映画は『宇宙人ポール』『15時17分、パリ行き』『オー!ブラザー』で、ほかはそうでもない。『パッセンジャー』ははじめから期待してなかったのでまあこんなもんかなと思った。あと『スプリング・ブレイカーズ』はこういう映画なのが分かってたのでいいとか悪いとかじゃない。『ビッグ・アイズ』はつまらなかった。『ムーンライト』はちょっと用事があって序盤までしか見られてないが、なんか最後で号泣する気がする。あと、ジャネール・モネイがプッシャーの彼女役で出ててびっくりした。学もないしやたら派手でエロいのに妙に母性とか包容力があって正しさを纏った不思議な女性って日本のヤンキーの中にもたまにいるけど、そういう感じの人を演じていて説得力があった。ただ役柄と違ってジャネール・モネイは大変な才女だと思うが。去年リリースしたアルバム、非常に良くてお気に入り。

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 で、『15時17分、パリ行き』の話をしようと思う。クリント・イーストウッド監督の映画である。私は彼の作風には結構共感するところが多いが、今回もやはりそうだった。(以下ネタバレを含む。ネタバレも何も史実なのだが……)

 

 

 この作品は実話に基づく映画で、大雑把に説明すると三人の若者がテロを止める、という物語だ。こうなってくると、テロリストとの大立ち回りや若者の活躍や勇気がフィーチャーされた過剰にヒロイックな作品を期待すると思う。Netflixのイントロダクションもだいたいそういう感じだ。(パリ行きの高速列車に乗りこんだ3人のアメリカ人青年は、無差別テロにどのように立ち向かったのか。実際の事件を基に、悲劇を防いだ3人の勇気ある行動を描く」)

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 ただ、この作品の監督はクリント・イーストウッドなのである。この映画の中のテロのシーンは、平坦な人生の中に唐突に挟まれた違和感のある場面でしかない。映画が目指すクライマックスではなく、人生のいち場面として描かれている。人生は事故の後も続くし、テロを防いだ英雄となったことが彼らの人生の全てではないだろう。これからもたくさんのことが起きるのだ。だから、映画にしてくれたのがイーストウッドでよかったと思う。彼の映画では、ちょっとしたラッキーが人生を導き、導かれた人間が何かを為す。それだけだ。

 私にとって彼は、市井の人が人生でやった過ちと正しい行いを静かに描き、仕上げにちょっとだけ創作の魔法をかけるという印象の監督で、今作も作品が静かに進んでいく。しかも、主人公三人や乗客は実際にテロ現場に居合わせた人物が演じている。3.11に巻き込まれた多くの子供がその心的外傷を克服するために、地震津波を模した遊びをしていたらしいが、それを思い出した。この映画はある種の自己治癒遊びのようでもある。世界一豪華なトラウマの再演だ。というか、イーストウッドの映画には彼自身によるトラウマの再演というか、そういう側面があるので納得した。

 あと、やはり彼の映画をみると運命と神さまについて考えてしまう。私は神さまなんて信じてないのだが、そんな私の身の上にさえ運命だと表現したくなるようなことが時々起きる。映画の主人公はクリスチャンで、幼い頃に祈りを捧げるシーンもあるのだから、余計にそうだろう。テロリストを乗せた電車がテロに立ち向かう経験を積んだ軍人も乗せている蓋然性について考える。起きる確率は起きない確率よりもちろん低いのだが、十分有りえることだ。そして、それを運命と呼ぶこともできる。